4 ウパーリ
持律第一(じりつだいいち)のウパーリ尊者
ウパーリ(優波離)尊者は戒律を守ることについては第一のお弟子さま。 ウパーリは、おしゃかさまの故郷と同じ、カピラヴァストウに生まれました。 その職業は、国の高貴な人たちに仕える、理容師さんでした。身分でいうと、シュードラ(奴隷)です。
かの国でのカースト制度という、人間を四つの身分に分ける決まりごととは、 一番偉い順から、バラモン(僧侶・神事を司る者)、クシャトリア(王族)、ヴァイシャ(商人など一般市民)、そして、シュードラ(奴隷)です。この身分制度は厳格で、いくら努力をしようと、シュードラがヴァイシャや、クシャトリアになることは出来ませんし、身分を越えての結婚は絶対に無理でした。おしゃかさまが悟りをえてから幾年か過ぎ、立派な聖者になられたことは故郷の人達に知れ渡っていました。
あるとき、おしゃかさまが故郷のカピラヴァストウに立ち寄られたとき、おしゃかさまの親族の者たちが出家して、お坊さんになりました。記録には七名とされていますが、アヌルッダや、ダイバダッタ、アーナンダ、など、後に名前の残る優れた者ばかりでした。
ウパーリはそんな良家の人たちに仕える理容師だったのです。
青年たちにとって、ウパーリは気の許せる親しい者であったようで、出家するときにも、彼を一緒に連れていくのです。
「ウパーリよ、わたしたちは家を出でて、近くの村に滞在しておられる偉大な師・ブッダに会い、出家の許しを得て、尊い法を求める道を歩みたいと思う。これまで、私たちはお前には大変お世話になった。せめてのお礼だが、これらを持ち帰るがよい。これだけでもひと財産になるはずだ」
と、言って彼らは、身につけていた装身具を外して、ウパーリに持たせるのです。きらびやかな宝石のついたものや、剣や衣、六名分のものを抱えて、ウパーリは呆然とたちつくし、彼らの旅立ちを見つめていました。
「・・・・高貴な身分の彼らが、その身分や財産を捨てて、会いにいかれる、おしゃかさまとはどんな方だろう、また、求める法はどんな教えなのだろうか」 「よし、わたしも彼らの後を追ってみよう」 と、ウパーリは彼らの後を追うことにしたのです。
そうして仲間にくわわったウパーリを入れた七人が、おしゃかさまのもとに参り、出家の許しをこいました。そのときに、七人のうち、誰がいちばん先に、おしゃかさまから戒をさずかるかということが問題になりました。 出家者は、仏・法・僧という三つの宝、「三宝(さんぼう)」を敬うことを、おしゃかさまの前で唱え、そして、おしゃかさまの定めた、きまりごとの「戒」をさずかり、仏弟子となるのです。 この戒を授かった順番によって兄弟子、弟弟子がきまります。おしゃかさまの教団には、身分の区別はありません、あるのは、出家の順番によって、後に出家した者は、先に出家したものを兄弟子として敬うことでした。 さあ、この時、どうなったかと言いますと、
六人の者たちが口をそろえて言いました。
「師よ、このウパーリをこそ、先に戒をさずけてください。私たちはこれまで奢りたかぶって生きておりました。そんな私たちに、ウパーリはよく仕えてきてくれました。常に謙虚で奢らないウパーリを兄弟子、長老として敬うことによって、私たちは、その奢りの気持ちを失くすことができますでしょう」
こうして、世間ではシュードラの身分で、理容師だったウパーリが、王族だった六人から「長老ウパーリ」として敬われることになったのです。
ウパーリの得意なことは、おしゃかさまが定めた戒律をひとつも間違えることなく、身体で覚え、実践することでした。 そのおこないによって、彼は「持律第一のウパーリ」と呼ばれるようになり、皆の尊敬を集めるところとなったのです。