6 プンナ

説法第一のプンナ(富楼那)尊者

プンナは、ブッダの教えを分かり易く、在家の人々に説くことに最も優れたお弟子さま。
インドの西の端に、スッパーラカという港町がありました。そこがプンナの生まれた町です。  プンナは、四人兄弟の四番目の子供でしたが、お母さんが召使の女性だったという理由で、お父さんが亡くなった後も、財産を一銭も貰えず、兄弟と争ったあげくに家を追い出されます。  無一物になったプンナでしたが、やがて、少ない元手から大金を手に入れる商才を受け継ぎ、貿易で財を成したお父さんを真似て、プンナも船に乗り、色々な品物をよその国へ運んで、多くの金を手にいれる、貿易大商人となりました。

『大貿易商プンナ』の噂は、はるか東のサーヴァッティーの町にも聞こえててきました。  サーバッティーの商人たちは、プンナに品物を預け、よその国でたくさん売ってもらおうと、スッパーラカの港にまで品物を運んできて、プンナの船に載せてくれるように頼んだのです。

商人たちから頼まれたプンナは、気持ちよく仕事を引き受け、売る品物と、サーヴァッティーの商人たちも船に載せて、よその国へ向かいました。
その航海中のこと、サーヴァッティーの商人たちが、船の一箇所に集まって、一緒になにかをお称えしている姿を見ました。

「おい、お前たちは何を歌っているのだ」 「いや、これは歌ではありませんよ」 「では、何なのだ?」 「これは、ブッダの教えられた言葉なのです」 「ブッダ?の言葉?」 プンナは、ブッダのことを知りませんでした。 「釈迦族のゴータマ・シッタールダ王子が出家され、悟りを得て、立派な聖者となりました。その方を讃えて、ブッダ・ゴータマと呼ぶようになったのです.。」 ブッダ・ゴータマという、その名を聞いて、プンナは、どこか、心が湧き立つのを感じたのです。

お釈迦様が、サーヴァッティーの「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)」という、お寺にいらっしゃる、ということをきいたプンナは、航海が終わり、スッパーラカの港に帰って来ると、休む間もなく、すぐにサーヴァッティーに向かいました。サーヴァッティーにいる友人のスダッタ長者にお願いして、お釈迦様に会わせてもらおうとおもったのです。

(※スダッタ長者は、祇園精舎を、コーサラ国のジェーダ太子とともに造営したサーヴァッティーの長者です。スダッタ長者は、身寄りのない孤独な人に食べ物を給するところから、アナータピンディカ(給孤独・ぎっこどく)長者とも呼ばれました。)
「おお、これは、これは。プンナ長者ではありませんか。プンナ様には、遠い海を渡っての御商売をされると聞きましたが・・・、今日は、このサーヴァッティーまで、どのような仕事のお話ですかな」
と、スダッタ長者は、プンナに言いました。

「いやいや、スダッタよ、今日は仕事の話ではないのです。ここ、サーヴァッティーにブッダ・ゴータマという、偉大な聖者がいらっしゃると聞いて、その方の弟子になりたいと強く思ったので、ぜひとも、御紹介をいただければと思い、ここに来たのです」

「ほお、そういうことですか。でしたら、私がご案内いたしましょう」

そうして、二人の長者は、一緒に祇園精舎をたずねたのです。そうして、プンナはお釈迦様に会うことが出来、弟子になることが叶ったのです。

プンナ尊者には、こういう話が残っています。
「ブッダよ、どうか、私に短く、分かり易い教えを話して下さい。私、プンナは、その話を聞いて、遠く離れた土地に行って、ブッダの教えを広めたく思います」

お釈迦様は、プンナに短い教えを話した後、言いました。
「プンナよ、お前はどこへ行こうとするのか」
「ブッダよ、私はスナーパランタへ行こうと思います」

スナーパランタは、プンナの生まれたスッパーラカのある地方でした。ただ、そこに暮らす人々は気性が荒々しく、お釈迦様はそのことを気にしていました。
「プンナよ、スナーパランタの人々は、大変気性が荒いということであるが、もしも、彼らがお前を悪く言い、あざけるようならばどうするのだ」
「ブッダよ、そのような時は、私はこう考えます。スナーパランタの人達はとても良い人達だ。なぜなら、彼等は 手を使って 私を叩いたりはしないのだから」

 「では、プンナよ、もしも、彼等が手を使って、お前を叩いたりすれば、どうするのだ」
「ブッダよ、そのような時は、私はこう考えます。スナーパランタの人達はとても良い人達だ。なぜなら、彼等は、土塊を以って、私にぶつけたりはしないのだから」 

「では、プンナよ、もしも、彼等が土塊を以って、お前にぶつけるようならば、どうするのだ」

「ブッダよ、そのような時は、私はこう考えます。スナーパランタの人達は、とても良い人達だ。彼等は、刀や剣を以って、私の命を奪うことが無いのだから...」
「では、プンナよ、もしも、彼等が、刀や剣を以って、お前の命を奪おうとすれば、どうするのだ」

「ブッダよ、ブッダのお弟子の中には、自分から剣を取って、悪い心で一杯になった身体を嫌って、命を断とうとした者もいると聞いています。スナーパランタの人達が、私の命を奪ってくれるなら、私は、自分の手を使わずに、その願いが叶うのです」
「よい。プンナよ、お前の勇気と強い心が分かった。安心して、スナーパランタへ行くがよい」

こうして、スナーパランタに行った、プンナ尊者は、海の貿易によって、たくさんの人の前で話してきた経験をいかして、その、誰にも分かり易い話術で、多くの人をひきつけ、その土地に仏の教えを広めたのです。