9 ラーフラ
ラーフラ尊者『密行(みつぎょう)第一』のお弟子さま
お坊さんの間では、よく、お寺の息子さんの事を『らごさん』と言ったりしています。これは、ブッダの実子、ラーフラの事から 来ています。 「障り」 ラーフラは、ブッダがまだ カピラ城の王子だった 29歳の時に、ヤショーダラー妃との間に 生まれました。 男の子 誕生の報せに、シッタールダ王子は、 「障り(さわり=ラーフラ)が生まれたか」と言われたそうです。出家を考えていた 王子にとって、男の子誕生は、妨げるもの、障り であったわけです。男の子の名前は、ラーフラと名付けられました。 「財産」 ラーフラは、父親の顔を 知らぬまま、育ちました。というのも、まだ彼が 物心つかぬうちに、父親のシッタールダ王子が、愛する家族を残して 城を出てしまったからです。 やがて、父シッタールダは、聖者ゴータマ・ブッダとなり、尊い教えを 説く者として、郷里の カピラバァストウにまで 聞こえてきました。ラーフラは 立派な男の子に 成長していました。
ブッダが 悟りを開いてから 七年後に、初めて 郷里のカピラバァストウに 帰郷されました。ブッダの姿を見て、ヤショーダラー妃は、ブッダの前で泣き崩れたといいます。 ある日の事です。お城の窓から、ブッダが托鉢している姿を見た、ヤショーダラー妃は、ラーフラに言いました。 「ほら、よくご覧なさい。あそこを歩いている、他の誰よりも、気高く、輝いて見える シャモンが、あなたの父ですよ。きっと あなたの父は たくさんの財産を持っていらっしゃいます。寄って行って、私に財産を下さい と言うのです。」 母の言葉を受けて、父 ブッダのそばに 歩みよった ラーフラは 言いました。 「私に財産をください。」
我が子の その言葉を聞いた ブッダは、ただ小さく頷き、 「ラーフラよ、お前に永遠に減る事のない財産を与えよう」と言われ、
ブッダはすぐに、サーリプッタと モッガラーナを呼ばれ、ラーフラを 出家させたのです。
「反抗」 こうして、なかば強制的とも言える 出家をさせられたラーフラは、なかなか 真面目に 修行に取り組みませんでした。 ある日、ブッダを訪ねに来た人が、 「ブッダはどちらにいらっしゃいますか?」と、問うと、ラーフラは、 「寺にいます」と答えました。本当はブッダは 山にいるというのに。
また、ある時は、別の訪ねてきた人に、 「山にいます」と答えました。本当は ブッダは寺にいるというのに。居場所を 反対に教えられた人は 大変です。寺と山の間は、歩いて何時間も 掛かる距離なのですから。 そのうち、ブッダの息子のラーフラは、嘘つきラーフラと呼ばれるように なりました。誰も 彼の言葉を 信用しなくなったのです。 そこで、とうとう ブッダが 彼のもとを訪ね、こう言われました。
諸々の 悪い行いは 嘘の言葉よりはじまる 熱の棒を飲まされても 戒を守るべし 小さな悪い行いも 積み重なれば その重さは 幾つもの大きな山と同じ やがて苦しみの元となり 君の身に襲い「密行第一」
ブッダの 戒めによって、ラーフラは 心を入れ換えて、修行に励むように なったのですが、なかなか悟りをえることが できませんでした。 というのも、彼の生い立ちなどが 邪魔をするのです。釈迦族の王子であり、ブッダと血のつながった 子供という事実が、彼の心に 立ちはだかりました。 そんな時、ブッダは ラーフラの部屋に立ち寄り、言葉を与えました。 ラーフラよ 諸々の雑念を離れて 尊い法を求めることは ひとすじの光 闇夜を裂くがごとし その道を得れば 誉れは周囲に聞こえるだろう その尊き道を歩む者を 天の神々も敬い 尊師の名を与える掛かるだろう。
それからの ラーフラは、ブッダの導きの 言葉によって、悟りを 得る事が 出来たのです。
ラーフラには、プンナのような あふれでるような 弁才はありません。サーリプッタのような 秀でた智恵も、モッガラーナのような 神通力もありません。ただ、ブッダの説かれた 戒めを きちんと守り、一人厳しく 修行を積む事に 秀でていました。ブッダからは「密行第一」と讃えられたのです。